現代のデジタル社会において、データは「新たな経営資源」として、人・モノ・金に並ぶ重要な位置を占めています。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、持続的な企業価値向上を実現するためには、このデータを最大限に活用することが不可欠です。企業がデータを効果的かつ安全に活用するための全社的な取り組みである「データガバナンス」について、その定義、必要性、具体的な取り組み方を解説します。さらに、データガバナンスを実装した未来の企業と社会のためにこれから何をすべきか考察します。
データガバナンスとは、企業や組織が保有するデータを、方針、プロセス、ルールに基づいて全社的に管理・保護し、その利活用による効果の最大化とリスクの最小化を目指すための枠組みです。これは、単なるデータ管理(データマネジメント)とは異なり、より経営的な視点から、データを企業の重要な資産として位置づけ、ステークホルダーへの説明責任を果たすための活動を指します。その最終的な目的は、データの利活用を通じて絶え間なく企業価値を向上させていくことにあります。
データガバナンスの役割は、国家統治における三権分立に例えることができます。
これら3つの機能が連携することで、データガバナンスは、組織全体のデータ管理を監督し、健全なデータ利活用を促進します。
データガバナンスが不在の状態では、組織は以下のような深刻なリスクに直面します。
出典:
*総務省 令和4年 情報通信白書 第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~ 第2節 顕在化している課題への対応 2 データガバナンスへの対応の現状」
データの経済的価値が高まる一方で、その取り扱いに対する懸念も世界的に高まっています。EUの「データガバナンス法」、米国の「連邦データ戦略」、中国の「データセキュリティ法」など、各国でデータの適正な利活用に向けたルール整備が進んでいます。日本でも、これらの動向を踏まえ「包括的データ戦略」が閣議決定される*など、データガバナンスの重要性が増しています。
経済社会が変革する中、データを起点とした戦略は不可逆的な流れとなっており、DX経営による企業価値向上を目指す「デジタルガバナンス・コード」においても、データ連携とデータガバナンスに関する法令遵守が求められています**。
出典:
*総務省 令和4年 情報通信白書 第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~ 第2節 顕在化している課題への対応 2 データガバナンスへの対応の現状」
**デジタル庁 データガバナンスガイドライン p.8 経営ビジョンと DX 戦略との連動」
データガバナンスの導入は、経営者の強いリーダーシップの下で、実装のフレームワークとなる4つの柱と以下の視点や導入ステップを意識して進めることが重要です。
出典:
*デジタル庁 データガバナンスガイドライン p.8-10 経営者に求められる視点」
出典:
*デジタル庁 データガバナンスガイドライン p.12-21 データガバナンス実装における4つの柱」
現状と課題の把握: 自社のデータマネジメントにおける問題点(データのサイロ化、品質問題など)を特定します
目的の明確化: 「効果の最大化」と「リスクの最小化」の観点から、データガバナンスによって達成したい具体的な目的を設定します
組織の設計: 目的に応じて、CDOの権限や責任範囲を定め、中央集権型、地方分権型、あるいはその両方を組み合わせたハイブリッド型の組織構造を設計します
ガイドラインの作成と周知: データの取り扱いルール、役割分担、上記「4つの柱」に関する方針を具体的に定め、その意義を組織全体に共有し、企業文化として定着させます
実施と改善: 策定したガイドラインに基づいて体制を構築し、PDCAサイクルを回しながら、アジャイルに(俊敏に)継続的な改善を行います
データガバナンスの取り組みは、単なる「守り」の備えではありません。その最終的な目標は、データの相互運用性を向上させ、企業価値の向上とサステナブルな社会の実現にあります。その実現のためには以下の2つに取り組んでいく必要があります。
最新技術への対応とリテラシー向上: 分散型AIなど、データの共有・連携にパラダイムシフトをもたらす可能性のある最新技術動向に注意を払う必要があります。また、日本の強みである現場の創意工夫をデータ利活用で発揮するためにも、全社的なデータリテラシー教育が不可欠です
社会課題解決への貢献: 人口減少が進む日本では、これまで競争領域とされてきた事業の収益性低下が課題となっています。自社内に留めていたデータを「協調領域」として他社や社会と共有・連携することで、社会全体で発生する無駄や非効率の解消、生活環境の改善に貢献し、ひいては自社のレピュテーション向上にも繋がります
このような企業の取り組みが、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会「Society 5.0」の実現に貢献するものと考えられます。
出典:
*デジタル庁 データガバナンスガイドライン p.24-25 データガバナンス実装の先に向けて」
データガバナンスは、もはや一部の先進企業だけのものではなく、デジタル時代を生き抜くすべての企業にとって取り組むべき重要な経営課題です。それは、国内外の法令やルールの変化に対応する「守り」の側面だけでなく、データを最大限に利活用して新たな価値を創出する攻めの経営を実現するための基盤となります。
経営者のリーダーシップの下、全社一丸となってデータガバナンスをアジャイルに実践し、組織のデータマチュリティを高めていくこと。それこそが、予測困難な時代において企業の持続的な成長を確かなものにし、より良い社会の実現に貢献する道筋となるでしょう。