AIは判断材料であって結論ではない
もちろんこれからもAIや機械学習など、最新の技術は急速に普及していくことでしょう。いつの時代も同じですが、新しく生まれた技術には、過度な期待が寄せられます。機械学習やディープラーニング、画像認識の技術の総称であるAIは2019年時点では、まさしくそういう技術と期待されています。
確かにAIを使えば、膨大で雑多なデータの特徴を数値化する、傾向値をまとめ、グループ分けするという作業が考えられない規模とスピードで実現します。人間の行動プロセスでいえば「知覚」「認知」「記憶」「学習」となるでしょうか。
弊社の事例「コンピュータにかわいいを分析させたら何が起きたか」の例では、さまざまなモノや言葉に付けられるタグの分析に、バスケット分析や通販サイトのレコメンデーションに応用されているアソシエーションルールを使うことで、タグの共起性、つまりタグとタグの関係性の深さ、依存性によって分類することができます。モノや言葉を人間は心の中でどのように認識しているのかを、タグの共起性によって心の可視化ができるのです。
インタビュー記事「 'かわいい' をAIが分析。感性の分野にまで踏み込むINSIGHT LABが目指すものとは」
しかも最新の技術では「リボンが付いている」から「かわいい」という関係性は認めても、「かわいい」から「リボンが付いている」という結果は出しません。人間の思考をなぞるように、タグの依存の方向も分析できます。
こうして「かわいい」や「エレガント」を実現するには何をしたらいいのか、かなり深いところまで思考の材料を提供できるようになります。このように、「かわいい」を適切に分析すれば、これまで不可能だったことを実現できることがお分かりかと思います。
しかし、AIが導き出すデータは、究極的には入力したデータに対する「イエス」「ノー」もしくは「確率」です。「結果」であって「結論」ではなく、「分析から得られた判断材料」であって「最終的な経営判断」ではありません。AIは最終的な回答を出してくれるわけではないのです。ここの誤解がとても多いのではないでしょうか。
AIを使ったとしても、そこから出てきたデータをどう読むか、どうやったら問題解決につながるデータを見つけることができるか、つまり「思考」は人間の仕事です。
かわいいを構成する要素だけでは経営判断には繋がりません。「売れている」という経営数値と組み合わせてはじめて、「売れるかわいいとはどんなものか」が見えてくるのです。売れる商品と売れない商品、それぞれに付けられたタグを情緒成分として利用します。さらに機械学習を使えば、「売れる」「売れない」に影響する情緒成分を影響度の大きい順に抽出することもできます。こうして売れ行きを左右する要素が具体的なキーワードとともに数値化されるのです。この結果を元に、「このブランドは、こういう要素を強調したかわいいを全面に押し出す」といった戦略を立案していきます。ここまでたどりついて初めて、収益の改善、経営改革という果実を手にすることができるのです。AIと企業内に蓄積されたデータと結びつけ、思考する段階で新たな知見は生まれるのです。
共同研究をして頂いた北海道大学大学院情報科学研究院の川村秀憲教授のインタビュー記事
AIと私たちの暮らし【後編】 分析! 「かわいい」を数値化して売れ筋を読む
マネジメントにフィードバックして初めて機能するAI
このようにAIから出力されるデータと、人間の思考のシナジーがもたらすインパクトは計り知れません。このシナジーをシステムに取り込むよう設計するのが、我々データ活用のプロとして重要な役割と断言してもいいでしょう。
具体的に説明すればAIが導き出した集計値や予測値を、マネジメントが設定するKGIやKPIを構成するディメンションにフィードバックして、そこでさまざまな試行錯誤という「思考」を実践できるように基盤を作り込んでいくのです。こうしたシステムを通じて浮かび上がってくるKPIは、従来の方法からは生まれ得なかった新しい切り口をもった、効果の高い目標数値となっています。最終的には、これを現場に下ろし業務の目標にして経営改革を実現するのです。
我々がどのように、BIやAIを駆使してかわいいを分析したのか、一冊の本にまとめました。よろしければこちらもご参照下さい。