近頃はビジネスシーンに限らず、日常の様々な場面でIoTというワードを耳にするようになりました。このような状況は日本だけでなく、世界中で生じています。
テクノロジー分野において最先端を走る国として必ず取り上げられるのがアメリカ、中国、ドイツです。各国ではすでに様々なシーンでIoTが普及しています。それでは日本の現在はどうでしょうか。世界のIoT動向や活用事例、そして日本の現状を踏まえて解説します。
IoTとは?
IoT(Internet of Things)とは直訳で「モノのインターネット」と言われています。
本来インターネットに繋がっているモノと言えばパソコンやスマートフォンが挙げられます。しかしIoTでは、それ以外の身の回りにある様々なモノをネットワークに繋ぎます。
そしてリアルタイムに情報収集し、蓄積された膨大なデータを基に傾向や規則性を見つけ出し、ユーザーに対して最適なサービスや体験を提供しようとするのがIoTです。
世界のIoTの取り組み
海外では国策としてデジタル分野における様々な取り組みが行われています。しかし、ここ数年の日本の取り組みは、世界から後れを取っている印象を持つ人も多いのではないでしょうか。
それでも日本は依然GDPでは世界3位です。では本当に日本は世界から取り残されているのでしょうか。他国の取り組みや、その成果についてまとめました。
各国のIoT推進の目的の違い
IoT活用と言っても国によって、その目的も背景も様々です。海外で推進が活発な代表的な国と言えばアメリカ、中国、ドイツが挙げられます。各国の目的は以下のようになっています。
・アメリカ
アメリカの傾向として、IoT推進の主な目的は「生活水準の向上」です。世界で最も多くのIT企業を有するアメリカだけあってその種類は多様です。Amazon.comやテスラなど、日常生活に密着した企業の台頭はアメリカらしさを象徴しています。
住宅のスマートホーム化、Apple Watchなどのヘルスケア。そしてテスラに代表される自動運転など、交通におけるIoT化も進んでいます。
・ドイツ
ドイツは産業機械や生産設備、そして物流におけるテクノロジーの導入でIoT推進を図っています。そして2011年以降、インダストリー4.0というドイツ発の「第4次産業革命」。政府と民間企業によって、現実の世界とサイバー空間を融合させようと提唱されました。
人間と機械、そしてそのほかの企業の保有する資源が相互に通信することで、どの製品がいつどこで製造されたか、そしてどこに納品されるのかといった情報が共有されます。
インダストリー4.0では、そういった製造プロセスを円滑なものにすることによって、新たな変革とビジネスモデルの構築を目的としています。
様々なモノや機器が相互に繋がることで、在庫状況に応じて自動的に発注できる能力を持った機械を作り出すことができれば人件費削減など様々な恩恵を受けられます。
参考:総務省「第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」補論 欧米の事例
・中国
中国でのIoTは主に経済成長を達成するために活用されています。中でも社会的ニーズの解決や、産業におけるIT化に取り入れられています。
2015年、政府によって「中国製造2025」という経済戦略が発表されました。2025年までに世界の製造強国の仲間入りをしようという国家戦略です。そして中国は、ゆくゆくは世界の製造分野におけるリーダー的な地位の確立を狙っています。まさに強国から大国を目指そうという施策です。
そのため中国では工業や物流はもちろん、インフラ事業や医療、環境といった様々な分野でIoT導入を加速させています。
参考:総務省 「国際的なIoTの進展状況」
世界の様々なIoT活用事例
世界では様々なIoT活用のための施策が展開されています。中でもやはりアメリカ、中国、ドイツの具体的な活用や取り組みは世界中から注目されています。ここでは先ほど取り上げた3か国にさらに着目し、活用事例を紹介します。
アメリカ:ディズニーワールド
米ウォルト・ディズニーでは入場券の代わりとして使えるウェアラブル端末「Magic Band」が開発されました。ホテルのカギとして、または電子マネーの機能も備わっているため、園内で財布を持ち歩く必要もありません。
またそれ以外にもディズニー側のメリットとして、MagicBandを装着したゲストの行動が追跡できるため、アトラクションの混雑状況が把握ができるだけでなく、そのデータは今後の施設やサービスの改良に役立ちます。
その上、ゲストは各ゲートでタッチするだけでスムーズ通過できるため混雑回避もでき、顧客満足度向上にも繋がります。
中国:IoTマンホール
中国は近年凄まじい発展を遂げていますが、地方に行くとまだまだテクノロジーとは程遠い風景が広がっています。そして、そんな地方都市ではインフラ整備が当面の課題となっています。
中でも地方で問題となっているのが井戸です。人や車が井戸に落ちてしまう事故がいまだに起こっており、問題となっています。そこで開発されたのがIoTマンホールです。
蓋となる部分が動くとセンサーが感知します。そして井戸の中に何かが転落するとリアルタイムで警報として、管理システムに通報される仕組みです。
ドイツ:アーム型ロボット
インダストリー4.0を掲げるドイツでは特に「スマートファクトリー」を強化しています。産業用ロボットメーカー「KUKA(クーカ)」では人間の腕のような形をしたアームロボットを開発しています。
その特徴として、細かい作業が得意で、自動でアームロボットがネジ締めを行います。さらに強度と位置を計算までしてくれる優れもので、人が近づくとセンサーで検知して作業がストップする機能が備え付けてられており、安全性も配慮されています。
日本のIoT事情
海外の様々なIoT事情を紹介してきましたが、では日本は今どのようにIoT活用が進んでいるのでしょうか。
国内企業の導入状況
2019年の日本経済研究センターの発表によるとIoT導入済みの企業は約15%でした。また、「検討している」との回答は21.8%。しかし、「導入意向なし」という回答がなんと61.7%もありました。
中でも理由として最も多かったのが「導入後のビジネスモデルが不明確」で約50%と半数以上。次いで「使いこなす人材がいない」が約35%と、日本企業におけるIoT導入の障壁はまだまだ高そうです。
国内に目を向けると、大企業では30.9%と、およそ3社に1社が活用しています。しかし中小企業では、わずか15.7%にとどまっており、業種別にみると29.6%と製造業が最も高く、「非製造業」では17.1% と参入の難しさが浮き彫りとなっています。
参考:日本経済研究センター「日本企業のAI・IoTの導入状況」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000610197.pdf
日本で導入が進まないもう一つの理由
現在、日本企業ではビジネスパーソンのITリテラシーの低さや、IT人材不足は深刻です。しかし、国民レベルでもIoT活用が進まない理由があります。
Amazon Echo(アマゾンエコー)に代表されるようなスマートホーム化を狙った家庭用IoTスピーカーを例に挙げてみましょう。日本では、欧米などと比べて土地の狭い独特の住宅事情があります。家屋の狭い多くの日本人にとっては、わざわざスピーカーに話しかける必要もないと感じられでしょう。
また、海外に比べ凶悪犯罪の発生率の低さも、IoT活用を遅らせています。海外では住宅への強盗や侵入を防ぐものとして、住人でないと開錠できないスマートロックや、自宅不在に不法侵入があった場合などに、スマートフォンなどで知らせてくれるなど、そもそものニーズが日本とは違っています。
このように、国によって大きく違う生活環境など、様々な理由がIoT導入が進まない理由となっています。
まとめ
やはり海外と日本のIoT活用状況は大きく異なります。現在テクノロジー分野において、世界からかなり遅れた印象のある日本。
また、IoTに対して肯定的な可能性は感じつつも、導入に至る思い切った計画を推進する企業や自治体はまだまだ限定的です。
企業のIoT導入推進や政府の施策などのニュースも他人事とせず、まずは我々個人レベルでも普段からIoT製品や情報に触れるということが重要かもしれません。